01/03/14 食中毒部会議事録 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食中毒部会議事次第 日  時  平成13年3月14日(水) 14:00〜16:06 場  所  経済産業省別館11階 E11会議室 審議事項  (1)平成12年食中毒発生状況について (2) 雪印乳業食中毒事件報告 (3) その他 出席委員  大月邦夫、熊谷進、塩見一雄、品川邦汎、竹田美文、丸山務、       宮村達男、柳川洋、山崎省二、渡邊治雄(敬称略) 厚生労働省 野嵜食品保健部長、石井基準課長、高谷監視安全課長、       滝本補佐、道野補佐、宮川補佐 ○事務局  お手元に配付している資料は幾つかございますが、最初の資料は次第等が書いてござ います。それから委員の先生が入っているものがございます。資料1といたしまして 「平成12年食中毒発生状況」がございます。資料2といたしまして、「雪印乳業食中毒 事件の原因究明調査結果について」というものをおつけしてございます。資料3といた しまして、「小型球形ウイルスを原因とする食中毒事例」という1枚紙をつけてござい ます。それから参考といたしまして、その後、参考1といたしまして、これは感染症研 究所の方が毎週お出しになられている「IDWR」という雑誌がございます。先週金曜 日に出た号に掲載されております「ノーウォーク様ウイルス感染症」の部分の抜粋でご ざいます。あと参考2に、これは兵庫県の食品衛生監視員協議会がまとめました「カキ をおいしく安全に」という、これは県の出したリーフレットでございます。  以上が配付資料でございます。 ○品川部会長  皆さんよろしいでしょうか。  みなそろっているようですので、それでは、本日は、昨年(平成12年度) の食中毒発 生状況の分析及び評価をお願いしたいと思います。 まず事務局から平成12年度の食中毒発生状況について説明をお願いいたします。 ○事務局  お手元に配付してございます資料1の説明をしたいと思います。  初めに、この発生状況でございますが、まだ速報でございまして、本年1月中旬に私 どものところで集計を開始しまして、それまで報告のあったものということでございま す。それ以降、厚生労働省の方に報告があったりとかしておりますので、最終的に確定 した場合は若干数字が増える可能性がある点を御承知いただければと思います。  それでは、資料に従いまして御説明させていただきます。  まず資料をめくっていただきまして、1ページからでございます。発生件数が2,151 件、患者数は4万2,191 名、死者4名というのが平成12年の発生状況でございます。2 人以上の事例、1人以上の事例というのはそちらに分けて書いてございます。  もう1ページめくっていただきまして2ページでございますが、これは年次推移をグ ラフにしたもので、件数の方は減少している傾向がございますが、患者数としてはさほ ど変わっていないというような状況がございます。  その次、3ページでございますが、食中毒の県別の発生件数でございます。資料の白 黒の部分が、カラーコピーをした関係でやや不鮮明な部分があるのですが、そのあたり はお許しいただきたいと思いますが、今年の特徴として患者数を見ていただくと飛び出 ているのが、大阪府が1万4,000 名、これは後ほど御紹介いたしますが、雪印の関係で ございます。 それから4ページに進みまして、これは各市町村といいますか、政令市、保健所設置 市等で再掲をしたものでございますが、大阪市のところが1万3,000 という数字が出て ございます。 それからもう1ページめくっていただきまして、5ページでございますが、これは1 人事例について都道府県別のものでございますが、山梨、広島というのは、従来から1 人事例の報告が多かったんですけれども、これはやや減り気味なのかなというのがござ います。 それから6ページは市町村別の再掲でございますが、広島市がこのような傾向になっ ているというのがございます。 その次に7ページでございますが、これは規模別の発生状況、横の表でございます。 特徴といたしましては、1人事例、一番左側のところが、これもコピーがよくございま せんが、一番左側の1人事例の3つカラムがございます。そのバーが10年、11年、12年 度でございますが、1人事例の報告が減っているというような状況がございます。  その次、8ページでございます。これは500 人以上の食中毒でございますが、毒素原 生大腸菌とブドウ球菌、そういうものでこういう事例が出ているというのがございま す。 その次、9ページでございますが、これは死者の出た食中毒事例でございまして、昨 年度報告された4例についてはこのようなものであります。最近、摂食中毒によって亡 くなられた方、もう一つは、キノコによる食中毒でございますが、お1人亡くなられて いるというのがございます。  その次のページが月別の発生状況のグラフでございます。10年、11年、12年の比較で ございますが、件数別で見ますと特徴的なのが、8月、9月、10月あたりの発生件数が 例年に比べてかなり少ないというのが今回の特徴だと思います。 それからその次、11ページでございますが、これは先ほどのグラフを2名以上の事 例、1名の事例で分けたものです。  その次、12ページでございますが、12ページは月別発生状況を患者数でまとめたもの でございます。ごらんいただきましたように、6月が飛び抜けて患者数が多いのは、昨 年の雪印の事例によるものであります。13ページはそれの2人事例、1人事例の分けた ものでございます。  その次に原因物質別の発生状況でございますが、見ていただきますと、トータルで 1,000 人を超えているのがサルモネラ、ブドウ球菌、腸炎ビブリオ、病原大腸菌、その 他の病原大腸菌、ウエルシュ菌、カンピロバクター、あと小型球形ウイルスというので 1,000 名を超える数が報告されております。 それから1人事例の方を見ていただくと、サルモネラでありますとか、腸炎ビブリ オ、病原大腸菌、カンピロバクターのところで1人事例の報告が多いです。あと例年と 少し違うのはコレラ、赤痢、これは食中毒としての報告をいただいたものが1件ずつ計 上されております。あとウイルスのところでは、「小型球形ウイルス」の下に「その 他」とございますが、これでロタウイルスによるものとA型肝炎によるものが2件報告 されてございます。 次に、15ページにグラフが出てございます。委員の先生にお配りしたのはカラーでご ざいまして、それ以外の方には白黒を配付させていただいたので少しわかりにくいもの になっておりますが、件数では多い順番で申しますとサルモネラ、カンピロバクター、 腸炎ビブリオと、そのような順番になっておりまして、いずれもこのような減少の傾向 になってございます。病原大腸菌についてはさほどで、一方その件数では、小型球形ウ イルスの件数が増加しているというようなことが見受けられます。  それと、16ページはこれの2人以上の事例で集計したものでございます。これはこう いう傾向ですが、サルモネラは、1人事例を抜いてしまうとこういうようなカーブにな るということでございます。 それから17ページは、患者数別の推移を表したものですが、一番突出しているのは黄 色ブドウ球菌でございます。それから小型球形ウイルスが2番目に出てございまして、 あとサルモネラ、それから腸炎ビブリオというような感じです。サルモネラ、腸炎ビブ リオが減少している一方で、小型球形ウイルス、それからブドウ球菌のあたりが増えて いるというところがごらんいただけるのではないかと思います。18ページは、それの2 人以上の事例のものをグラフにしたものでございます。  その次、19ページになろうかと思います。ちょっと不鮮明ですが、19ページの横の表 でございますが、原因食品別のものであります。特徴的なところとしては、「貝類」の 報告件数が105 ということで、これがやや多いということがございます。それから患者 数では「乳類及びその加工品」が多いということが見られます。これは例年の傾向でご ざいますが、「その他」のところ、食事を特定したところまではいけたというものがこ のような数になっております。これが圧倒的に多いということになろうと思います。そ れをめくっていただきますと、原因食品別のグラフになります。「不明」というものが 一番突出しているわけですが、「不明」、「その他」が多くて、あとは例年と変わらな い状況でございます。それから21ページは、同じくそれの2名以上の事例でございま す。 その次、22ページは患者数で原因食品をプロットしたものであります。これも乳製品 のところが少し突出してございますが、それ以外は大きく変わっているものではござい ません。23ページも、それの2人以上の患者数の事例でございます。  その次、24ページにまいりまして原因施設別の発生状況でございますが、例年と変わ らない部分としては、飲食店等で件数が圧倒的に多いのですけれども、このようなもの になります。ただ、患者数で見ますと、製造所のようなところで非常にたくさんの患者 が報告をされているというものがあります。あと学校でありますのは、事業所でありま すとか給食施設の件数は、昨年は特に給食関係での大きな事故というのはなかったとい うことを反映して、数字的にはこのように落ち着いた数字になってございます。あと1 人事例のところでございますが、これも昨年と変わりませんが、家庭での報告というの が圧倒的に多いということになります。  25ページにその施設別のグラフにしてございます。一番突出しているのは「不明」と いうものでございますが、あと「飲食店」、「家庭」というのがその次になります。そ の次の26ページは2人以上の事例をまとめたものでございます。 27ページの方は患者別に示してございますが、学校の給食関係のもの、「仕出し屋」 というのものは、デコボコが平成8年、9年あたりに非常に多くの患者を出しておるん ですが、そのあたりはこのところ落ち着いているということになろうと思います。2人 以上の事例も同じようなことでございます。  以上簡単ではございますが、平成12年の食中毒発生状況についての説明でございま す。 ○品川部会長  食中毒に関してほかにございませんでしょうか。 ○丸山委員  原因食品で貝類が結構多いですね。貝類は特に多い貝類というのあるんですか、ある いは生の貝類なのか、あるいは加工したものなのか、そのあたりが対策上大事に なってくるだろうと思うんですけれども、その内容がわかったら教えてください。 ○事務局  貝でございますが、105 件ございます。後で御説明いたします資料3につけてござい ますが、小型球形ウイルスの関係で、そのうち72件はカキでございまして、ほとんどカ キの事例がそれに当たるのではないかというふうに思います。あと二枚貝で腸炎ビブリ オ関係のものが若干ございます。そういったものが主体だろうと思います。 ○品川部会長  ほかに先生方ございませんか。  そうしますと、昨年非常に大きな事例でありました雪印乳業の原因究明調査について 説明していただけますか。 ○品川部会長  ここの部分は届け出制、自己申告でやっていますから、潜伏時間が非常に長い48時間 のようなものとか、それはまた違うだろう。ここも実際には患者認定委員会、そういう のをやられて絞り込んでこういう数字が出てきたという報告が出ています。 ほかに先生方、これに関してございませんでしょうか。 そうしますと小型球形ウイルスの方に移りたいと思いますけれども、まず事務局で小 型球形ウイルスについて資料を用意しておられますので、それについて説明願います。 ○事務局  お手元にございます資料3、参考資料1、2がそれに関連するものでございます。最 初に資料1で御説明いたしましたように、小型球形ウイルスの患者数等の増加等もござ いますので、それについて幾つかまとめてみたものでございます。  資料3をごらんいただければ、1枚紙でございますが、まず上の方に食品別の発生状 況が書いてございます。集計といいますか、表をつくるときに数字の間違いがございま して訂正がございます。事件数が197 ではなくて、これは234 が正しい数字でございま す。したがいまして、事件数の各パーセンテージがカキが36.5になっているのが30.8、 カキ以外の食品が4.3 、不明ですが、食事を特定されたものが49.1、食事も特定できな かったものが15.8、個別の原因食品別の事件数はこれが正しい数字でございます。 大体3分の1程度はカキによるものであったというのが最初の表でございます。それ 以外に食事が特定されてカキ以外のものというのがいろいろとあったというのも小型球 形ウイルスによるものであります。その下に100 人以上の集団発生の事例をお出しいた しました。 これは原因食品のところを見ていただきますと、カキというのは下の方じゃないと出 てこないんですけれども、上の方のものを幾つか拾い出して申し上げると、例えば5番 目にございます宮崎県の事例でございますが、これは小学校の社会教育施設、林間学校 のような施設といいますか、そういうのに別々の学校から参加された4校の児童と教職 員の方がなられたという事例で、この場合は県の調査では、従業員の方、実際ウイルス の検出はこの場合なかったのですけれども、従業員5名中3名で抗体の上昇等があっ て、原因として食事、それから食事の汚染の要因として、その従業員からの汚染があっ たのではないかという報告がございます。  その下の6番目でございますが、これは大分県の仕出屋の事例でございますが、これ は従業員が陽性であったこと、施設の衛生管理状態が非常によくなかったということ で、調理済みの食品が広範囲に汚染された。これも汚染要因が考えられたという事例で ございます。 それから9番目の長野の事例でございますが、スキー教室のようなものに中学生のグ ループが参加していた。林間学校といいますか、スキー教室で行っていたわけですけれ ども、ホテルの食事で起こったわけですけれども、疫学調査で患者の発生が一方性で出 ている、患者、従業員それぞれからSRSVが検出されていて、それらの要素を踏まえ ると、手指の洗浄、消毒の不備、または器具の洗浄、消毒の不備によって汚染が進んだ のではないかというのがございます。 その下の群馬県の事例は、調理従事者が発症していた、もしくは保有をしていたとい うこと、それから手指の洗浄不良とか、器具の不適切な使用のようなものが原因ではな いかというような報告がございます。 それ以外で実際に原因の特定までいかなかったのは一番上の愛知県の事例でございま すが、これは特定の日に調理したものに偏って患者が発生をしているという事例でござ いましたが、これは従業員の検便を行っていないという点があるんですけれども、原因 は不明とはなっておるんですが、手指を介したような汚染が考えられるのではないかと いうのがございます。  それからあと、その下の京都市の事例は、これは詳細な報告はきておらないんです が、これも餅つき大会で草餅のようなものと、おろしをつけたようなものをつくってい るんですけれども、実際に食品の取り扱いをした方の検便というのはできていないんで すけれども、食品の取り扱いに関連しているのではないかというようなことが書かれて います。ただ、これも特定はできなかったというような報告がきてございます。  以上のように、カキというものの話というのは残っておるんですけれども、このよう に我が国で報告されているものの中には、調理従事者以外のものがかなりあるというの が資料3の説明でございます。  それから参考資料1でございますが、従来、形態学的にSRSVと申していたわけで すけれども、遺伝レベルでの分類等ができるようになっていた関係で、分類ではノーウ ォーク様ウイルスというようなものが学会等で確定しつつあるわけなんですが、このあ たりは宮村先生に補足をしていただければと思いますが、それについて現在の知見を感 染症研究所のウイルス第二部の武田先生がおまとめになられたものであります。疫学的 なもの、病原物質でありますとか、臨床症状がついてございましたので、参考までにつ けてございます。  参考資料2の方でございますが、これは兵庫県が最近まとめた一般の消費者向けの リーフレットでございまして、カキの問題等々がちょうど1月、2月あたりに集中して 起こるものでございますので、それについてまとめておるということであります。一般 向けにこういう啓発をしておるというのが現在の小型球形ウイルスの対策であります。  あと、一番最後のところではカキの現在の基準等も引用してございますが、このよう な資料を出して啓発するというのが今の対策として重要なところでございます。  以上簡単ではございますが、資料の説明でございます。 ○品川部会長  どうもありがとうございます。これに関して何か御質問なりございませんか。  宮村先生の方でこれに関して御意見はございますか。 ○宮村委員  小型球形ウイルスが食中毒の原因であるということになったというか、行政上そうい うクライテリアに入ったのはつい最近のことで、そういうふうになる背景として、少な くとも患者さんの中から、これはこの種のウイルスが原因であるということが確実にわ かるようになったということが、細菌ではない原因不明の食中毒から一定のエンティテ ィを持った疾患群がわかったわけです。しかし、実際の原因食品を特定するというの は、今の段階ではまだ発展途上にありまして、非常に難しくて氷山の一角だけがわかっ ているという状況です。  例えば資料3の患者さん100 人の事例で原因食品名がありまして、カキがあるかない かということが白か黒かみたいになっていますが、実際に調べてみますと、カキ類から 検出されるウイルスというので、そんな単純に1種類のSRSVがあるわけではなく て、本当に真面目にやっていきますと、糞便中に検出される患者さんのウイルスと、食 品から検出されることは非常に難しいんだけれども、仮にとれたとしたときには、いろ んな雑多なウイルスの遺伝子がとれてきて、その因果関係を証明することは、うまく対 応しているのはむしろめずらしいぐらいであります。そうなってみると、今の段階で原 因食品を特定するというのはいかに難しいかということがわかりますので、細菌のよう な非常に切れ味のするどい原因究明というのが実はまだまだ発展途上にあって難しいと いうことです。その難しさの一つは、ウイルスの持つ多様性があるし、先ほど血清学的 に分類分別できるということを少しおっしゃられましたが、これもまた発展途上にあり ます。まだウイルス学的な診断が非常に難しいまま進行している、そういうことが大前 提だと思います。  もう一つは、ついこの間まで小型球形ウイルスというような名前、SRSVというも のがみんなにポピュラーに使われた名前ですけれども、これは考えてみれば随分変な名 前で、今、武田さんが書いた総説のように、ノーウォーク様ウイルス、時々、「ノーウ ォークさま」なんて言う人もいますが、そういう意味ではこれも正式な名称ではなくて 俗名でありまして、ノーウォークというのは、アメリカのノーウォークで確認されたど ういうウイルスかわからないところで言われた最初の株の名前でありますので、非常に コンヒュージョンがあります。そういう意味でまだ「小型球形ウイルス」と言っていた 方がいいかもしれないし、私たちの間ではペーパー・パクチューワード・ノーウォーク 様ウイルス(NLV)としてやっているのが現状です。 ○品川部会長  先生どうもありがとうございました。この小型球形ウイルスというのは非常に難しい んだけれども、現実にはこれだけの食中毒が挙がってきているということでありますけ れども、先生方、何かこれに関して御質問ございますか。 ○山崎委員  小型球形ウイルスが患者数において平成10年に第2番目になっている現状で、食品か ら見てこのウイルスを研究するというのは厚生労働省の中にあるんですか。といいます のは、患者の方から、ヒトの方からというのは存じ上げていますけれども、食品に対応 しているというのがどこかにあるんですか。非常に増えているときに何か、というの は、今、感染研から食品部分は医薬・食品に移るとしても、そこでもできないような雰 囲気があるんですが、その辺はどうでしょうか。 ○事務局  事務局の方で、資料3でもそうなんですけれども、実際に食品から分離されていると いうのはかなり少ないです。山崎先生がまさにおっしゃるとおりでございまして、それ は技術的な問題が非常に大きいと理解をしてございます。宮村先生、もしあれでしたら 補足をしていただければと思います。 ○品川部会長  知見でも食品からの検出というのは先生のところに持ってこられるんですか。 ○宮村委員  食品からの検出はテクニカルに難しいというよりは、そこに原因となるSRSVが増 えて残っているということがほとんどないからであります。テクニックに関してはPCRで検出するわけですが、それはクライマーのシークエンスがぴったり合えば、そして 正しいサンプルがあれば衛研の最前線ですべて検出できます。 ○品川部会長  山崎先生よろしいですか。 ○山崎委員  はい。 ○品川部会長  ほかに。 ○丸山委員  宮村先生にお伺いしたいんですけれども、今いろんなところにいくと、SRSV中毒 というのをどう扱ったらいいのか、それから検査法が本当にでき上がっているの、困り ますよというところをよく聞くんですね。検査法というのは、今、先生がおっしゃっ て、知見レベルではできるとおっしゃられるしたけれども、PCRのクライマーやなん かというものを、こういうものを使えばいいよということができ上がっているんです か。知見レベルでは必ずPCRでもってそれを確認するというレベルにはいっていると みていいんですか。 ○宮村委員  いっております。それを確認するために、PCRで増幅したプラグメントを、例えば ハイブリダイゼーションで決める、あるいはある特定の知見や感染研の中ではそれを シークエンスをして、どういうタイプであるかということを決めますが、もう一つ今2 年前からやっているのは、増幅したプラグメントをハイブリダイゼーションによって確 認するということを公衆衛生院の西尾先生のところを中心として全国に配付をしており ます。感染研で徹底的にやっているのは、幾つかあるジェノタイプの代表的なものの抗 原をつくりまして、その抗原を利用しましてIGMの検出をやろうとしております。こ れはまだ研究段階で、ごく一部の衛研と共同研究しながら体系づくりを進めています。 ○丸山委員  それに関連してですけれども、食品での分布とか、例えばカキにどれぐらいいるのかとか、どれぐらい数がいるのというあたりの研究というのはどこいらまでいっているのでしょうか。 ○宮村委員  幾つかの衛研では、カキといいますか、養殖海産物が基幹産業のところがありまして、具体的に言うと宮城県とか広島県とか海の汚染度のマーカーとして使われているところがあります。カキというのは、その生体学上一日に2トンか3トンの水をチルド レートするという構造をしていますので、これも先ほど言いましたように、SRSVだけではなくて、普通のエンテロウイルスとかそういうものも検出されてきます。カキを ウイルス学的にチェックすることはできるわけですが、時々メーカーの人がこういうこ とはできないかといって相談に来るんですが、それはとてもできない。例えばワクチン のように、感染研とか特定の検査会社で抜き取り検査をして、そしてこのカキはウイル スフリーであるという検査をしてほしいというのがあるんですけれども、ワクチンのよ うなスパイクテストもできなければ、品質管理がなされた上での抜き取りじゃないです から、やって出たポジティブ、ネガティブ。ポジティブは出るんですけれども、ネガティブという結果の評価が不可能です。 ○品川部会長  よろしいですか。 ○竹田委員  2トン、3トンのフィルトレーションするといったカキの数は言われなかったので、 どれだけが2トン、3トンか。 ○宮村委員  1匹のカキのところに。 ○竹田委員  信じられないような気がしたんですけれども。 ○品川部会長  実際にはどのぐらいのパーティクルというか、ウイルス量がおれば検査に引っかかる のか。いるけれども、実際には少ない量だったらかからないとか、その辺はどれぐらい のですか。 ○宮村委員  SRSVはバイオ細胞で増えないので、何匹のウイルスということがなかなかできな くて、遺伝子コピーナンバーといいます。そうしますとそれは、カキにいるウイルスの 検出感度ではなくて、PCRの検出感度になるわけで、それは数コピーを1匹のカキか らうまく濃縮できれば検出すると、そういうことでございます。 ○品川部会長  実際食品からというのは非常に難しい。便の方からというのは量的にも結構とれる。 ○宮村委員  今、竹田先生が驚いておられましたけれども、カキの黒いところは何で言うのでしょ うか、中腸腺、あそこがごみだめみたいなところになります。 ○丸山委員  これの統計なんですけれども、例えば人から人へうつると考えられるような事例がご ざいますね。そういうものはこの統計の中には全然入ってきていないんですか。例えば どこかの県の保育園の事例がありましたね。どこかの県じゃなくて、幾つもの県がある と思うんですが、そういうのはこの統計の中に入ってきていませんか。 ○事務局  詳報をすべて詳細に確認して今の段階で全部見てはおらないんですが、先ほど申し上 げた資料3の9番目の長野の事例の場合は、非常にクリアに発症日時は集団がかなり固 まっていたりとか、ただそれはグループであったりするわけですけれども、そういう意 味で疫学的な部分を中心に、あるいは全く別々のグループが特定の日の特定の食事のみ で非常に多く出ているとか、そういうような部分で出しているというのが多いと思いま す。患者の便からSRSVが出ているというのはほとんどの場合がそれに当たると思い ます。ヒトが入っているか入っていないかの話を言うと、疫学調査の甘いところがある と、もしかしたら入っているかもしれない。かなりそこは慎重にやっておろうと思って いますが。 ○丸山委員  そうしますと、この統計は、何らかの共通色ということがあったものがこの中の食中 毒統計として載っていると。 ○事務局  そういうことです。患者からSRSVが出たからSRSVの食中毒だというふうにはやっていないと思います。 ○丸山委員  もう一つそれに関連してですけれども、4類感染症の感染性胃腸炎、その中でのいわ ゆるSRSVというのはかなりあるんですか。 ○事務局  ちょっとそこは十分に精査しておりません。 ○竹田委員  それは食品衛生法と感染症法の将来を、だから、感染症法で感染性胃腸炎という名前 を入れることには私は大反対したんです。そんな非科学的なことはないと。ほかは全部 病名で入っている。しかし感染性胃腸炎の場合には、原因菌がわからない限り入らない となると、いわゆる胃腸炎の流行の予測ができないということで入っているので、先生 の質問に対しては、全く原因がわからない臨床症状での診断が感染性胃腸炎ですが、 ノーウォークであろうが、コレラであろうが、コレラ菌が分類されなかったら胃腸炎と 極めて非科学的です。 ○丸山委員  私の今の質問はナンセンスと。 ○竹田委員  ナンセンスというよりも、今後の、それこそ食品衛生法と感染症法を考えるときの大 問題です。 ○丸山委員  SRSVに人から人という事例を相当聞きますよ。実際起きていますね。その問題は これからどうするのかというのは、食中毒部会としても大変大事な問題だというふうに 認識しているものですから、先ほど宮村先生がいろんなところが発展途上だとおっしゃ った。もう少しそのあたりを究明していって整理をするなり、はっきりするものはさせ るというふうにしていくことが食中毒部会として大変大事だというふうに思っておりま す。 ○品川部会長  その点に関してまた次のところで、事務局と私の方で、小型球形ウイルス(SRSV)の感染症について整理して討議したいと思います。実際にはこれからの食中毒の発 生状況の解析を先生方にしていただきたいんですけれども、前もって議論をするために 私と事務局の方で幾つかのポイントについてたたき案をつくっております。それを見な がら論議していただければと思いますので、一応それを事務局の方で配付させていただ きます。                (要点メモの配付) ○品川部会長  よろしいでしょうか。  それでは、事務局の方で昨年の食中毒発生状況について解析した内容を簡単にメモし たものを読み上げていただきたいと思います。よろしくお願いします。 ○事務局  お配りした紙は、どちらかといいますと、私どもと部会長と御相談をして、議論がい ろいろな方向にいってはなんだということで、今回のトピックのようなものを拾って先 生方から御意見をいただければと思いまして、そのベースとなるようなものと思って幾 つかの点をお出しさせていただきました。  1つ目が、これは先ほどの資料2に関連しますが、黄色ブドウ球菌の事件に関連し て、今後の再発防止という観点でエンテロトキシンの検査法自身、実際分析は技術的に できているんですけれども、乳・乳製品全般について示せるようなものがあれば、そう いうものを確立していきたい。こういうようなものの発生防止に関して規格基準のよう なものの整備を検討できればと思って、こういう方向を少しまとめていければというの が1つ目でございます。  2つ目からその下3つが小型球形ウイルス(SRSV)の関係でございますが、実際 に患者数、件数ともに一昨年の平成11年からかなりの数があるということを踏まえて、 まず一義的な対策として考えていく必要があろうと。できるものがあるのであればやっ ていければというので、1つは、ウイルス全般にかかるのかもしれませんけれども、食 品衛生管理という意味で従業員などの手洗いとか、特に集団給食施設でありますとか仕 出屋などの飲食店なんかでの手洗いの徹底のようなものを啓発していくというのを考え ていければと。それからもう一つ、加熱をすれば、例えばカキのようなものについても 防ぐことができるのであれば、そういう点を啓発するべきではないかというのが2つ目 でございます。  3つ目は、これはいろいろ御議論があろうと思いますが、実際その対策を検討してい くためにどういう研究を進めていったらいいのか。ここで一つは、どれぐらいの数であ れば起こるのか、こういうのが果たしていけるのかどうかという御意見をいただければ と思うんですが、そのリスクアセスメントをしていく上でベースとなるような調査研究 を進められればというふうなことでございます。  その次の4番目でございますが、これはいろいろ御指摘があるわけですが、いわゆる ウイルスの名称でございますが、知見等が増えた、また国際的な命名法でも学会等の名 称でも変更があったというので、こういうふうな名前を改めるのであれば改めてもいい のかなという点がそれでございます。  あと最後に、冒頭でもございましたが、1人事例等の問題がございますので、今現在 での健康被害そのものの把握の仕方というものの限界が当然ございますので、それらに ついて推計する方法の研究を進められればという、この5つの点を要点といいますか、 これ以外にも議論の点というのはあろうと思いますけれども、御議論いただければと思 います。 ○品川部会長  今読み上げていただきましたように、この5つというのも一つのたたき案として皆さ ん方に論議していただき、ほかにまだありましたら出していただければ結構だと思いま すけれども、今回の雪印の黄色ブドウ球菌事件に関して、1つは、毒素の検出法という のをきちんと確立するということ。実際に乳製品の方は、規格基準、製造基準なり、成 分規格も決まっているんですけれども、脱脂粉乳の方については衛生基準もないから、 こういうことを検討すべきではないかということであります。1番はこういう形でよろ しいでしょうか。何かありましたら言っていただければ。  あと2番目、3番目、4番目というのは先ほどから論議になっております小型球形ウ イルスの問題、またそれの名称、SRSVからノーウォーク様ウイルスの名前の変更、 こういうのを含めてでありますけれども、この辺で何か御意見はございますか。 ○塩見委員  宮村先生にお伺いしたいんですけれども、SRSVと言われた場合、いつもカキだけ が問題になるような気がするんですけれども、二枚貝は一般的にプランクトンフィー ダーで、カキと同じような形で餌をとっている。そうしたときに、ほかの二枚貝の現状 というのはどういうふうになっているのかということに何か調査とかそういうのがある のでしょうか、あるいはカキだけをこれからも気をつければいいのか、そうじゃなく て、二枚貝全体を気をつけなければいけないのか、その辺について何かデータがござい ましたら教えていただきたいんですけれども。 ○宮村委員  貝類についてのエピデミオロジーとか、そういうのはちょっと記憶にないんですが、 逆に事例から明らかにカキではなくて、ほかの貝類というので結構知られているのは、 外国から輸入されるアサリのしょうゆ漬けとかその種のものが事例として報告されてい るのが注目されている。それで、先生がおっしゃるように確かに「カキ、カキ」と過大 にすると、常々カキをかわいそうに思っているところがありまして、例えば2番のとこ ろも、カキを加熱すれば防止できるというようなものでもないということで、もう少し 「カキなどの貝類」とか、そういうふうにしてもいいんじゃないかと思うんです。 ○竹田委員  しかし生で食べるのはカキが一番多いということでしょう。 ○宮村委員  そうですね。それと、消費量が桁外れだと思いますし、特に日本人の間ではカキを食 べる。それからカキについては、本来生で食べるべきものと、出荷の段階から、これは 生では食べない方がいいというものの分別が、我々の口に入るときに、そういうふうに なされているかというところの違いも、つまり品質管理のところもありますので、結果 としてカキが疑われるケースが結構ある。それから仮にほかの原因であっても、カキを 食べていればカキが悪いというようなことになるのではないでしょうか。 ○品川部会長  今の関連ですか、どうぞ。 ○熊谷委員  患者100 人以上の事例の表の中に14番目にアサリを含めたわさびあえというのがあり ますね。途中から現れて申しわけないんですが、これはどういうふうに評価されたのか わからないんですけれども、アサリについて私自身の記憶もあやしい部分もありますの で、後で事務局の方で御確認いただければと思うんですが、この食中毒に関連してかど うか忘れてしまったんですが、たしか食品衛生監視員の研修会で監視員の研究発表会が ありましたけれども、その中で瀬戸内海のアサリから検出したというのを大体のところ 記憶しているわけです。14番のアサリというのを見ますと、カキ以外の二枚貝もあり得 るのではなかろうかという頭になっているんですが、そうした場合に、アサリは通常加 熱をかなりしますので、その後はリスクはないと思いますけれども、それを調理した部 分、2番目に手洗いなどという手洗いを優先的に書いてありますけれども、それと並べ て、例えば調理の段階の衛生管理といいますか、まな板とかそういった部分を要約して ここに並べるような形で記載してみてはいかがでしょうかと思うんですが。 ○品川部会長  実際に手洗いというのは従業員の問題と、先ほどから言われていますように、カキだ けが責任ではなくて、カキの中では実際に増殖しない。ただフィルターを通して止まっ ているだけで、そういう面でカキだけがと先ほど先生が言われたと思うんですけれど も、しかし、そういうのは加熱して食べるということと、もう一つは衛生管理のところ は生食用と加熱用というのは最初から分けて出荷なり、規格基準というのはつくってい るわけですね。その辺は事務局で。 ○事務局  この事例の詳報自身が手元にきていないので、汚染の要因がアサリ本体なのかどうか というのは確認をしないとわからないんですが、資料3のその他カキ以外の食品の中に は二枚貝として入っているのが3つほどございまして、1つがアサリのわさびあえとい うあえ物があるのと、あと3つございます。貝を焼物にしたようなもの、ハマグリが原 因食品だというもの、シジミのしょうゆ漬けが原因だったという報告は出てございま す。その詳細それぞれ詳報等来ていない部分がございますので、ちょっとそこは実際に 検出がどこまでされたかというのは今の段階では御説明できないんですけれども。 ○柳川委員  カキの生食用と加熱調理用というのがありますよね。それでSRSVへの汚染の程度 とかを示し得るのかどうかというのが1点と、外国でもカキは生食していますね、外国 の発生状況についてもし教えていただけることがあったらぜひお聞かせいただきたいと 思います。 ○宮村委員  SRSVによるカキの頻度はわかりませんが、事例の報告はアメリカ、ヨーロッパで結構あります。生食用というのは、言いましたように、食品におけるそういうデータはないし、なかなか難しいのではないかと。生食用か、ほかのクライテリアは別のマーカーでされているものだと思います。 ○柳川委員  ということは生食用と書いてあっても関係ないということですか。 ○宮村委員  生食用と書いてあっても、SRSVが入っていないから安全だと、そういうお墨付きの根拠はないと思います。 ○事務局  ちなみに、現行の食品衛生法上の規格基準では生食用のカキの規格がございます。これは先ほど兵庫県のパンフレットの一番最後についているのですけれども、加工基準だとか、あるいは成分規格等が設けられておりまして、養殖海域の海水の規格は大腸菌群の最確数で100ミリリッター当たり70以下という規格はありますけれども、SRSVを直接指標にした、あるいはそれの関連からの規格というのはございません。  今SRSVの名称の問題を含めて、一番問題なのは、カキにしても食品からの検出と いうのがなかなか難しいということで止まっているし、ましてや、どのくらいの量で起 こるんだというような問題というのも非常に難しい、この辺が研究課題になる。3番に 掲げたヒトの発症に関するウイルス量の推計などの調査研究を推進すべきだということ を書いている。 ○竹田委員  それはどうしてやるんですか。人間の実験をやらない限り成り立たない。私は腸炎ビ ブリオでそれをやりたいんだけれどもできないんですよ。腸炎ビブリオからも食品から とるのは大変難しい。だから、これの研究はやるというと、これは倫理問題になってく るんですよ。 ○品川部会長  その辺が実際にカキで起こったときに、そういう研究というのはできるのかできないのか。しかし、この辺がある程度進んでこないとなかなか対応というのはできないし、その辺は事務局では。 ○事務局  実際に先ほどの生食用のカキの基準がございますが、宮村先生、事務局が説明いたしましたように、今の基準というものにウイルスそのものがまず入っていないというのが一方であるんですけれども、いろいろ食品の対策を立てる上で実際にそのリスクがどのぐらいあるものかというのを調べていく上で基礎的なものが必要であって、この場合なかなかそこがよくわかっていない。実験自身もまだわかっていないというのがあって、基礎的なデータがとれるようなものを進められればというのが3番目のところなんです。そこは非常に苦しい話なんですけれども。 ○宮村委員  気持ちはよくわかるわけですが、書いたとき、例えば食品中におけるウイルスの高感度の検出方法に対する研究というようなことが根本にあるのではないかというふうに思います。 ○品川部会長  確かにここの量というよりは、まだまだ高感度の検出法を確立する。食品からの実態をきちんとつかむというのが必要だという。 ○宮村委員  今、生食用のときに、カキの品質の評価としてウイルス量とかウイルスの検出というのがされていないわけですから、それは将来にわたっても多分できないと思います。なぜならば、食品中にあるものというのは、そこでいつまでも残っているとは限らないからです。もしカキとかそういう食品をワクチンのように集団と抜き取りのサンプル等の検査が完全にコントロールされているならば、そういう条件が最低必要なわけですから、それができなければ、この食品がウイルスフリーでないというようなことが仮にこれからできるようになっても、非常に難しいのではないか。 ○竹田委員  市場に出てきたらいけるでしょう。 ○宮村委員  ワクチンと違ったときに全部調べるわけです。そうすると抜き取りの検査があって、その抜き取りの一つの蓋然性といいますか、評価を全体のロットシステムがない以上は難しいのではないか。 ○品川部会長  そういうわけで海域でできる。そういう形の中で、実際に抜き取り検査というのは、生産から流通のところでどこである程度見てやっていくかという考え方を導入しないとなかなか難しい。そのためには海域にしても大体この辺が危ないとかというのを自己管理といいますか、そういうのが貝から直接少ない量でも検出できるようになれば、そういうことができるのかなと思うんですけれども、いかがですか。 ○大月委員  私は現場で見ますと、SRSVは食中毒の分類の中に入ってから時間が経っていないわけでございますから、簡単に言うと、原因究明の体制がまだ十分できていないものを集計しているんだと思います。細菌生食中毒なんかですとかなりそれなりの体制ができていて、感染経路にしても、汚染経路にしてもそれなりに上手なんだと思いますが、SRSVについてはようやく地方衛生研究所レベルで分析ができるようになって、今は何でもSRSVだというような感じで出している形が多いんだと思います。それはそれでいいんだと思いますが、しかし、実際には検体のとり方から始まって、どっちかというと、従来の細菌摂食中毒型の検体のとり方は今でも主流になっているわけです。もっと言えば、細菌性のものを調べていって、何もないときに、じゃ、SRSVでやってくれというような感じで頼むところもあるわけです。それではウイルスが出るはずがない。患者さんの検体もそうでして、10日も前の食中毒の検便をとって、そこからSRSVが出るわけがない。フレッシュな便を持ってこなくてはいけないわけでございますから、そういう認識が一つあると、もうちょっとこの話がはっきりするのではないか。検出の方法が進歩したために、最近は従業員なんかを調べますとSRSVが出てくるということですけれども、そのこととSRSVが原因で食中毒が起こったのかというのとはちょっと違うのかもしれないんですね。それはさっきから言われているジェノタイプであるとか、PCRでいろいろやってみて、本当に同じ海域なのかということになって いくと実は違うかもしれない。それはこれから知見を集めていくしかないんだと思います。そのためにある程度厚生労働省の方で、このSRSVについては少し丁寧なマニュアルといいますか、指導をしていただいてきめ細かに、研究的に言えば、そういうものについては全部感染研なら感染研が中心になって、ジェノタイプも含めて同じタイプのSRSVかどうかをきちんと同定できるようなシステムをつくってあげれば、これだけ出ている事例ももうちょっと評価に値するものになっていくと思いますし、簡単に言うと Person to Person(PTP,人人感染)が本当にあるかどうか、あるいは食品から媒介してうつるかどうかという実例を証拠として出さないことには困るんだと思います。そういう意味でぜひしていただくのがいいのかなと思います。 ○品川部会長  どうもありがとうございました。この点に関しては事務局で整理していただくことに なろうと思います。もう少し進めて、もう一つ名称の問題のところをまだ少し早いのか なと言われていましたけれども、この名称に関して、竹田先生、病原大腸菌のところ も、名称は従来の食中毒のとり方のところで、前にちょっと御意見を言っておられます が、もし名称ということがありましたら。 ○竹田委員  ちょっとこことは違いますけれどもよろしいですか。まずSRSVというのは非常にわかりにくいので、ノーウォーク様ウイルスとする方に賛成なんですけれども、名称が変えられるのだったら、私、かねてから病原大腸菌という名称に関しての変更を提案したいんですけれども、先生方御存知のとおり、下痢を起こす大腸菌が5種類あるんです。一番古く見つかったのがエンテロパソジェニックイーコライ、このエンテロパソジェニックイーコイライに和名が病原性大腸菌とついているわけです。そしてその後、細胞侵入性大腸菌、毒素原生大腸菌、腸管出血性大腸菌、腸管凝集性大腸菌と5種類あって、病態も下痢を起こす機構も全く違うのだけれども、これをひっくるめて病原性大腸菌と言うんです。したがって、ひっくるめて病原性大腸菌というふうな表現をしているのは、恐らく食中毒統計があるので我が国だけなんです。外国へ行ってエンテロパソジェニックイーコーライというと5つのうちの1つなんです。したがって、我が国で行政用語として病原性大腸菌という言葉を使っているのをやめないと、例えば病原性大腸菌O-157というのを日本人が英語にしたときに、パソジェニックイーコーライO-157と言ったら外国の学者には、エッ知識あるの、エンテロヘモラジックイーコーライO-157と言うんじゃないのと、こうなんですね。したがって、もしこの部会で名称変更を議論していただけるのだったら、ひっくるめた言葉の病原性大腸菌をやめて、下痢原性大腸菌というふうな名前にしていただいたらどうかというのがかねてからの持論なんです。 ○品川部会長  今のはちょっと違うんですけれども、ノーウォーク様ウイルスのところと名称という形で、先生に前に私がお聞きしましたので、この点に関しても、こういう名称変更というのは事務局でどういうふうにお考えですか。 ○事務局  先生がおっしゃる点は十分理解をいたしまして、ほかに行政的に名称を使っている点があるかどうか十分確認いたします。いずれにしても食中毒統計では病原大腸菌と、今お示しした資料1でもそう書いてございますので、そこは今のお話を踏まえて検討したいと思います。ほかの行政上の取り扱いとの整合を踏まえて少し検討したいと思います。 ○食品保健部長  竹田先生、病原性大腸菌の話は感染症の予防法絡みでいろいろ出てまいりますので、簡単に変えましょうというわけにもいかないと思うんです。私ども宿題にはさせていただきますけれども、そういうことで、今申し上げましたが、ほかのところにもそういう病名を使っておるというところがございますので、そういう整理をどうするかというのは、係るところと少し検討はしたいと思います。 ○品川部会長  そうしますと、こっちのウイルスの方はもう変えた方がいいのか、先ほどまだ早い、SRSVもいいのかなと先生は言われましたが、その辺はいかがですか。 ○宮村委員  我々の領域では、例えばペーパーを書くときには自動的にNLVと書きます。SRSVと書いていても直されるわけです。ただし、今まで統計をとってきて、この名前を変更することによって統計関与にくみしていた人たちがそれがスムーズに、ただ名前の変更という、クライテリアとかそういうのがうまくいけばいいなと思いますが、そこはいかがでしょうか。 ○品川部会長  その辺は今、名前の変更によるものは。 ○事務局  恐らく食中毒統計の中で出てくるのは、ウイルス性のところで例示として小型球形ウイルスといって引いているのが1つございます。ただ、実際技術的には恐らく同じウイルスを扱われていらっしゃる方が検査をしたりやられるでしょうから、形態学的だけでやっているかどうかという問題もあろうと思いますので、そこは混乱を来さない方法で変更していけばいいのかなとは思うんですけれども、今、検査法としては、私どもで通知を出していて、電顕でやる方法とPCRでやる方法を先生方の御指導をいただいてやっているというのがございますので、恐らくそこは明確にすれば、行政的なものとしては混乱は来さないのかなと思うんですけれども、とりはぐれたりということにはならないのではないかと思うんですが、そこは当然、先生方の留意点というのは踏まえるんだと思います。 ○品川部会長  先ほど貝類のことが出ました。貝類だけではなくて、等の貝類ぐらいにした方がいいんじゃないかというのが出ましたけれども、その辺を入れるべきかどうかということがあります。生で食べるのがカキが圧倒的に多いのも事実です。 ○監視安全課長  相談させていただきながら2の後段は書いてあるんですが、カキを生で食べるというのを、ほとんど食文化みたいになっているものをやめろという話をここでやっていいのかなという気になっていて、確かにいたものを殺してしまうというのは、よく加熱をしたらというのはあり得るんですけれども、カキを生で食うなよということを言うか言わないかということで踏ん切りがつかないなと思って、それで先生方の御意見をということです。 ○品川部会長  全部なくせといったら加熱しなければいけないけれども、日本の食生活において、本当にそれでいいのかというのが今問われる。カキは加熱調理することが防止できるということで、もしこの辺の意見を少し、先生方はどういうふうに。 ○丸山委員  カキを生で食べるなんて、そんなことはできないんじゃないですか。少なくとも私は反対です。生で食べるからカキというのはおいしいので、これは広島県にしても宮城県にしても、こんなことを言ったらうんと反対するんじゃないですか。ですから、生で食べるなということでない方法を考えなければいけないんだろうと思います。あるいは食べる人についての注意とか、根本的には食べる人にその安全性ということについてのリスクをどう教えるか、そしてその範囲の中で選択してくださいというのが、私は食べるということの基本だと思いますけれども、衛生というのも、そういう中で考えるべきものだと私自身は思っています。 ○竹田委員  2番の文章はこれで私は賛成なんです。しかし、これはカキを生で食べるなと言っているとは思わないんですよ。これはO-157のときに生で食べるのをやめましょうと言ったときに、寿司どうするのですか、刺身どうするのですかという話が出てきても、それはそれとして、今、丸山先生が言われたとおり御本人のリスクで、だけれども、今カキで食中毒が起こっているのは、SRSVが起こっているのは生だからだということをどう啓発するか、だから、この文章はやさしいんだけれども、啓発の実際の文章が難しいと思います。それを知らしめることは賛成です。したがって、ここで手直しをするのは、先ほど問題になっているカキだけにするのかどうかだけのことであって、ただ、私自身としては、まずカキ、そうでないと、アサリもシジミもなんて言っていたら際限なくなってくるから、とりあえずはカキと。 ○品川部会長  丸山先生も多分その辺で、この文章では食べるなということではなくて、啓発としてはこういうことを書いてやっていくべきだと。 照 会 先 :医薬局食品保健部監視安全課 宮川・中嶋        電   話 3595−2337   内線2478        ファックス 3503−7964 愛知ウイルスの発見 地 研 名: 愛知県衛生研究所 報 告 者: 所属 ウイルス部   氏名 鈴木康元 発生年月: 1987年から1994年 発生地域: 愛知県内 発生規模: 推定患者数:42名(母集団1938名)、死亡:0名 原因物質: 愛知ウイルス キーワード: ウイルス、ウイルス性食中毒、急性胃腸炎、集団発生、SRSV、ELISA、単クローン抗体、愛知ウイルス 背 景  わが国で冬季に集団発生する給食やカキなどを介した急性胃腸炎の原因として、小型球形ウイルス(SRSV)が注目され、電子顕微鏡による検査が行われてきた。しかし、この方法によるウイルス学的診断は、その正確さ、感度、相同性など数々の問題点が存在していた。近年、Norwalk virusを代表とするSRSVや、5つの血清型が存在するという astrovirus についてはELISAなどの免疫生化学的検出方法が確立され、わが国における急性胃腸炎の集団発生とこれらウイルスとの関連が明らかにされようとしている。当研究所でも、これらSRSVに注目し調査を行ってきたが、カキを介した胃腸炎で Norwalkvirus やastrovirus の関与しない集団発生例から、既知のSRSVは異なるウイルスSRSV; 愛知株)を分離している。この事は、Norwalk virus や astrovirus以外にも急性胃腸炎の集団発生に関与する別のウイルスが存在する可能性を示唆している。 Norwalk virus や astrovirus は細胞培養が難しかったため、人体実験でその病原性が証明された後に、その検出方法について数々の検討がなされた。わが国では人体実験は行えないが、幸いにも愛知株は細胞培養が比較的容易であるので、前記ウイルスよりも低コストで検出方法の検討が可能である。そこで、当研究所では同ウイルス株の ELISAを用いた迅速・簡便な検出方法を確立し、広範囲な疫学的調査を実施し、愛知株と集団発生胃腸炎との関連を明らかにしようと考えた。 概 要  1987年から1994年の間に県内で発生したカキを介すると考えられた急性胃腸炎の集団発生14事例141名、感染症サーベイランス事業で胃腸炎と診断された小児266名、東南アジア諸国から帰国時に名古屋空港検疫所で胃腸炎症状により検便検査を実施し、細菌検査が陰性であった752 名、それに、パキスタンのカラチ市民病院を訪れた現地小児779 名(胃腸炎 421 名、その他358 名)から得た糞便、及び上記集団発生10事例の患者72名からえた患者ペア血清を用い、ウイルス分離、単クローン抗体の作成及び抗原検出用のサンドイッチELISAと抗体検出用競合抑制 ELISAの確立を図り、成功した。  その結果、愛知ウイルス抗原検出用ELISA(0.5 ng 以上の抗原が検出可能)に対して、Norwalk virus 、astrovirus、enterovirusのいずれのウイルスも反応しなかったため、愛知ウイルスが新しい型のウイルスである可能性が考えられた。抗体測定用のELISAによる検査結果は、培養細胞を用いた中和抗体測定法による抗体価とよく一致していた。  1987年から1994年の間に県内で発生したカキを介すると考えられた急性胃腸炎の集団発生14事例中6事例で、本ウイルスの関与が明らかとなった。この6事例において、ELISAによる抗原検出率は0%〜80%:平均24 %(13 / 54)で、ウイルス分離率(0%〜60%:平均11%)より良い成績であった。ペア血清で有意な抗体上昇を示した患者は56名中24名(43%)であった。抗体上昇者も17%〜80%と各事例で差がみられた。抗体上昇者24名のうち、IgM抗体の上昇が認められた人が7名(29%)、Ig AIgG抗体の上昇が認められた人が11名(46%)、残りの6名がIg G抗体のみの上昇であった。初感染と思われるIg M抗体保有者(7名)の各症状の程度が比較的重く、かつ、症状の出現頻度としては、全員が発熱を訴え、6名が嘔吐を伴っていた。これに対しIgAとIgG抗体が共に上昇していた人では、嘔気(8/11名)と嘔吐(7/11名)の訴えが多かった。また、Ig G抗体のみが上昇していた人の主症状は腹痛(6/6名)と下痢(5/6名)であった。  以上のことから本ウイルスはカキが原因の集団発生の胃腸炎に深く関与し、出現抗体の差違により、主症状に差が現われることが示唆された。一方、愛知ウイルスは1990年 1月を最後に集団発生事例からは検出されていなかったが、1997年1月に2名/1事 例、及び1998年1月から3月にかけて6名/10事例から検出された。このことから本ウイルスの流行には波があるものと思われる。  感染症サーベイランス事業で胃腸炎と診断された小児の便(266 例)からは、培養法では本ウイルスは一例も分離されなかった。一方、ELISA法により1例から本ウイルス が検出されたがこの検体からはロタウイルスも同時に検出された。注目すべきことに、東南アジア諸国からの帰国者6名から本ウイルスの抗原がELISAにより検出された。  このうち5名からは本ウイルスが分離培養された。渡航先は、インドネシア(1例)、タイ(1例)、シンガポール(4例)であった。一方、パキスタンの現地小児779 例(胃腸炎 421 例、その他 358 例)からは11 例(胃腸炎8例、その他3例)でELISA法により本抗原が検出され、そのうち5名の胃腸炎患者からは本ウイルスが分離培養された。以上の結果から、わが国では、小児より大人、特に急性胃腸炎の集団発生と本ウイルスとの関連の深さが示唆された。また、本ウイルスがアジア各地に分布していることが明らかとなったが、パキスタンでは小児の胃腸炎に関与していることが示唆された。 地研の対応  1993年、当研究所では「組織培養された小型球形ウイルス(愛知株)の分類と検査方法の確立」を調査研究課題として取り上げ、2年間にわたり実施した研究の結果が前述の概要である。さらに、1995年から5年計画で「小型球形ウイルス(愛知株)の遺伝子解析」を特別調査研究として取り上げ、シークエンサーによる遺伝子解析によるその分類と、PCR法による同ウイルスの検出法の開発等を重点的に行っているところである。その間、1996年にはDNAシークエンサーも導入され、初期の目的達成に向け現在急速に研究が進展しているところである。 行政の対応  研究所からの要請に応じて愛知県衛生部(環境衛生課及び食品獣医務課)の担当と保健所は、流行状態の把握のために積極的な集団発生の監視に努め、発生毎に保健所の担当者が現場へ直接赴き、血液、糞便等の検査材料の採取、及び、その採取依頼を行った。 原因究明、診断  このような経緯で急性胃腸炎集団発生から病因と推定されるウイルスの検索を進めた結果、愛知ウイルスが発見された。  検査法は先にも述べたように当ELISA法が主な手段であったが、最近では遺伝子解析を含めた種々の検査法が実施できるまでに進展した。 地研間の連携  1997年8月発行の病原微生物検出方法(月報;18−8:210号)に「愛知ウイルスが検出された胃腸炎集団発生」(情報)として全国の地研に対して検査法の供与を行っている旨を載せ、協力体制を呼びかけている。 国及び国研との連携  国立感染症研究所・現ウイルス第2部の武田室長と共同で愛知ウイルスの遺伝子解析を進め本ウイルスがピコルナウイルスに属することを確定するに至った。 事例の教訓、反省  地研と行政との緊密な連携の結果、適切な検査材料の採取が可能となったことによって、その後、原因と推定できるウイルスが検出された。本県におけるこのような胃腸炎ウイルスの疫学調査及び研究は、全国規模で開催される学会、衛生微生物技術協議会及び研究会において逐一報告がなされた。しかし、初期において確定診断に必要な血液の採取が困難な事例があり、十分な疫学情報が得られなかったことが反省される。 現在の状況  上述したように、国立感染症研究所・現ウイルス第2部の武田室長と共同で愛知ウイルスの遺伝子解析を進め本ウイルスがピコルナウイルスに属することを確定するに至った。さらに、その結果からPCR法による検出法の開発を進め1998年1月から3月の食中毒事例において、数例からこのPCR法により本ウイルスを検出する成果を得ている。 今後の問題点  ウイルス性胃腸炎の原因ウイルスにつては未知の部分が多く残されており、また、その疫学調査法及び検査技術の日進月歩の進展は望ましい状況ではあるが、なお次のことが望まれる。 1)国として (1) 地研における研究費及び検査費への予算補助 (2) ウイルス性胃腸炎の予防対策 (3) SRSV以外の胃腸炎ウイルス(愛知ウイルス等)の検査体制整備と全国調査の実施 2)自治体として (1) 検査費の予算化 (2) 行政・保健所担当者への啓発と定期的会合(発生時と検査の迅速な情報交換の必要性) (3) ウイルス性胃腸炎の予防対策 関連資料リスト  1) 平成6年度 愛知県衛生研究所年報、第23号;調査研究':組織培養された小型球形ウイルス(愛知株)の分類と検査方法の確立  2) 「愛知ウイルスが検出された胃腸炎集団発生」病原微生物検出情報、Vol. 18、 No. 8(No. 210)1997  3) Isolation of Cytopathic Small Round Viruses with BS-C-1 Cells from Patients with Gastroenteritis. Teruo Yamashita et al. The J. Infect. Diseases 164 : 954-957, 1991.  4) Prevalence of Newly Isolated, Cytopathic Small Round Virus(Aichi Strain) in Japan. Teruo Yamashita et al. J. Clinical. Microbiol. 31:2938- 2943, 1993.  5) Isolation of Cytopathic Small Round Virus(Aichi Virus)from Pakistani Children and Japanese Travelers from Southeast Asia. Teruo Yamashita et al. Microbiol. Immunol. 139 : 433-435, 1995. 1)ウイルス性食中毒 −食品衛生法の改正に伴うこれからの課題− 1-4 食品(カキ)からのSRSV遺伝子検出方法及び実態 斎藤博之 (秋田県衛生科学研究所)   SRSVによる下痢症の流行形態は様々あるが、生カキの摂食が原因と推定されるケースは以前より知られており、予防対策の面からカキ中腸腺内のSRSVを効率よく検査する方法の確立が急務となっている。ここでは、検出にRT-PCR法を使用することを前提に、検体処理法(遺伝子抽出法)について考察を加える。糞便検体の処理においては、いわゆる"原法"としてのCTAB法があり、また、最近は様々な抽出キットが市販されている。しかし、カキの処理にあたっては糞便に対するプロトコルが必ずしも当てはまらないことを認識しておく必要がある。    カキ検体の特徴を列記すると次のようになる。    1. 微量のRNA(SRSV)に対して圧倒的に大量のDNA(カキ本体)    2. 様々な多糖類による酵素阻害 (RTase、Taq polymerase)    3. 物理的な破砕方法が必要    通常行われているホモジナイザーやストマッカーによる処理では、大量のカキ由来DNAが混入し、増幅後の判定が困難になるだけではなく検出感度の低下も避けられない。同時に多糖類の混入による偽陰性も考えられる。一方、検査室内の備品や消耗品にも限りがあるため大量の検体処理には向かない(PCR検査では、洗浄後の再使用は不安)。当所ではこうした問題点を解決するために凍結融解による検体処理法を考案した。すなわち、摘出したカキ中腸腺をエッペンドルフチューブに入れて-80℃で凍結し、その後60℃程度の温湯を添加して急激な温度差で組織を破砕する(細胞破砕ではない)。遠心上清に対して糞便と同じように処理を行えばRNAを抽出できる。なお、エタノール沈殿の際に白濁が生じた場合は多糖類の混入が考えられるのでグラスミルク法などの追加処理が必要となる。また、逆転写反応直前にDNaseI処理を行うことでエキストラバンドを一掃できることは既に発表(Hiroyuki Saito et al., Microbiol.Immunol., Vol.42, No.6, 439-446, 1998)したが、カキに対しても有効である。 ノーウォークウイルス       環境保健センター 微生物部 ヒトに感染して下痢,嘔吐,腹痛などを引き起こす病因ウイルスは,以下の7種が知られています。乳幼児に激しい嘔吐下痢症を引き起こすロタウイルス,血清型の40と41が下痢や胃腸炎に関与しているアデノウイルス,発生頻度は低いもののいったん発生する大規模に経過するとされているアストロウイルス,1989年,愛知衛生研究所の山下らによって,カキが関与した急性胃腸炎患者の便から世界で初めて分離同定されたアイチウイルス,まだあまりよくわかっていないコロナウイルス,そして,近年,検出法として感度の高い分子生物学的手法が導入されたことにより,医療レベルのみでなく,公衆衛生レベルでの重要性が明らかになったノーウォークウイルス(Norwalk virus;NV)とサッポロウイルス(Sapporo virus;SV)です。これまで"ヒトカリシウイルス"と呼ばれていた一群のウイルスは,新しい国際分類により,このようにノーウォークウイルス及びサッポロウイルスと呼ばれることになりました。また,電子顕微鏡下の形態からSmall round structured virus(SRSV)とも呼ばれており、特にNVについては食品衛生法上はまだ"SRSV"という用語が使用されています。 SVは,主に小児のウイルス性胃腸炎の原因ウイルスとされており,NVは,乳幼児から成人に至るまで幅広い年齢層に感染し,非細菌性食中毒の主要原因ウイルスであるとされていることから,ヒトのウイルス性胃腸炎における原因ウイルスの中では,A群ロタウイルスに次いで重要なウイルスと考えられています。 NV及びSVは,増殖のための培養細胞系も実験動物系も確立されておらず,抗原的に多様性に富むため,EIA等の免疫学的方法では検出が難しいとされています。現在,世界的に広く用いられている検出方法は,電子顕微鏡法,NV及びSV遺伝子の1部を増幅するRT−PCRとその産物をハイブリダイゼーションにより同定する方法,さらにシークエンサーの整備された施設ではPCR産物の塩基配列により同定する方法があります。 現在当所で行っている検査法は,電子顕微鏡法とRT−PCR・ハイブリダイゼーションとELISA法で,RT−PCR・ハイブリダイゼーションとELISA法についてはSVについては行っておらず,NVのみを対象に実施しています。 電子顕微鏡法は,便材料を緩衝液で10%乳剤とし遠心分離で夾雑物を除き,超遠心(35,000r.p.m,3時間)でウイルスを濃縮したものをネガティブ染色後直接観察します。しかし,この方法で検出するには106粒子/ml以上のウイルスが必要となり,決して感度の高い方法とはいえません。ですから発症後できるだけ早い時期(2〜3日以内)に便を採取することも重要なポイントです。 NV及びSVはプラス1本鎖RNAを遺伝子にもつウイルスなので,RT−PCRの成功の成否はいかにきれいなRNAを取り出せるかに尽きます。抽出したRNAを鋳型にして逆転写酵素によりcDNAを合成します。そして,合成されたcDNAを鋳型にして複数のプライマーを用いて1stで40サイクル,2ndで35サイクルのPCRを行います。増幅された遺伝子は,プローブとハイブリダイズさせて確認します。RNAの抽出,RT−PCR,ハイブリダイゼーションは,非常に煩雑な検査のため,結果が判明するまで検体搬入後約4日を要しますが,特にRT−PCRでの検出感度は102粒子/mlと非常に高いため有用です。 ELISA法は,NVの構造タンパクを組み換えバキュロウイルスで発現してウイルス様中空粒子を産生し,それを抗原に作製した免疫血清を用いて抗原性の差異を明らかにする方法です。この検査キットは今のところ地方衛生研究所で試験的に使用されているだけです。 ところで,本県において昨年度は,11月から3月までの期間に6件のNVによる集団発生事例が発生し,遺伝子型はgenogroup2が大半を占めました。発生した場所は,小学校,保育園,児童福祉施設,高校の寮,法事,高校のバレーボール大会打ち上げというようにバラエティーに富んでいました。 NVは,ウイルスに汚染された二枚貝などの食品を充分に加熱しないで食べたことなどが原因で起きる食中毒だけでなく,person to personの感染も引き起こすので,今後も監視を続けることが必要と思われます。 なお,ウイルスの感染経路や感染した際の症状等については,昨年11月報の『今月の話題』を参考にしてください。 【参考文献】: 武田 直和 他,ヒトカリシウイルス感染による急性胃腸炎,モダンメディア45巻6号 中田 修二,ノーウォークウイルスとサッポロウイルス,検査と技術 vol. 28 no.6 .集会抄録  山陰地区感染症懇話会第21回鳥取県例会(平成12年12月17日 県立生涯学習センター)  一般抄録(前号つづき) 1)ヒトと環境からからのNorwalk Virus(NV)検出状況       鳥取県衛生研究所  川本 歩,松本尚美,細井 亨  Norwalk Virus(NV)は冬季に頻発する食中毒や小児の急性胃腸炎の原因ウイルスとして知られており,食水系感染,ヒトからヒトへの感染経路がある.  今回我々は,下水,海水などの環境水および小児散発胃腸炎患者便からNVの検出を行い,鳥取県における感染性胃腸炎の発生状況と併せてNVの疫学的検討と検出したNVの遺伝子解析を行った.  海水20Lを陽電荷フイルター法とポリエチレングリコール吸着による濃縮,下水(処理前)270mlはポリエチレングリコール吸着による濃縮を行い,NVの検出方法はRT-PCR法を用いた.  検査定点小児医療機関で採取された小児胃腸炎患者便についてNVの検出を行った結果,1999年12月(6/35件),2000年8月〜12月(14/98件)が陽性で,2000年11月は8/35,12月は4/6の陽性率であった.  下水は7月から11月について毎月1回採取し検査し,毎月NV陽性であった.また海水は東部,中部,西部の河川流入域3地点で,6月から11月まで毎月1回採水し検査した結果,10月を除いて毎月いずれかの地点で検出された.一方,鳥取県感染症発生動向調査事業の週報(平成7から12年)による感染性胃腸炎患者発生状況は,毎年患者発生は第46週頃から増加しはじめ翌年の第26週頃に終息傾向を示し,小児からのNV検出状況と一致した.  小児から検出したNV6株(1999年)のうち5株はGenogroupeII型,1株はΙ型であった.また7月の中部地区の海水から検出したNVのGenotypeはMXtypeで,散発例から検出した遺伝子型と一致し,我が国で最も流行しているGenotypeであった.以上の調査結果から小児胃腸炎の原因ウイルスとしてNVが関与し検出状況と患者発生状況の一致を認め,ヒトから排泄されたNVによる環境水の汚染が推察された. SRSV感染症 (培養方法と殺菌方法の困難) 東大阪短期大学 医学博士 教授 柳 元和  1997年オックスフォードでの短期研修を終えて帰国した私は、大阪府栄養士会の学術集会で証拠に基づく医療(Evidence Based Medicine、 EBM)に関連する講演をした。当時はEBMについて知る人は少なく、臨床疫学的な手法の解説はめずらしいものであったが、ご記憶の方もあろうかと思う。  ところで数年前、筆者は生カキを食して数時間後、急に倦怠感に襲われ、当時は「風邪でも引いたかな。」くらいに考えていたのを思い出す。その後、激しい腹痛と下痢に見舞われ、食中毒が頭をかすめたが、生カキからはA型肝炎くらいしか思い付かず、それ以上の追及もしなかった。本年に入って偶然にSRSV(小型球形ウイルス、small round-structured virus 現在はカリシウイルス科と命名されているウイルス群)のことを勉強する機会を得て「これだ!」と思い至ったわけである。  調べてみると、これがなかなかやっかいなウイルスであることがわかる。実は、いまだに培養法が確立していない1)。検出方法も高価なRT-PCR法が注目されているにすぎない。したがって1972年にこの種の最初のウイルスであるノーウォーク・ウイルス(Norwalk virus)が発見されて以降も、つい最近に至るまでその病原性がよく理解されて来なかったのである。  ボランティアへの接種実験によると2)、50人中82%の41人に感染し、その内の68%は何らかの症状を示した。最も多かったのは嘔気、頭痛、腹痛であり、下痢や嘔吐を伴うものが多かった。発症までの時間は10-50時間で、下痢の持続は24-48時間というところである。通常100時間を超えてウイルスが排出されることは少ない。ただし2週間を超えて排出していた例が知られており、ボランティアの調査によると健常保菌者も存在するようである。  感染源はまず患者の排泄物であり、人から人への感染の一番の原因である。また吐物の飛沫が環境を汚染する例も多い。食物を介する例としては、汚染された飲料水、加熱調理されていない貝類、卵、サラダ、冷製食品が多い。特に日本では加熱調理の不十分な貝類(特にカキ)からの発症が報告されている3)。  やっかいなのは水からの感染である4)。行楽地で湧き水を飲むような場合はもちろんのこと、水泳でも感染する例が知られている。もっと深刻なのは上水道からの感染例である。米国では99.99%のウイルスを除去することを目標にかかげているが、技術的には99.98%が限界のようである。そして、このような勧告の下でも上水道からの感染例が起こっているのである。実は先ほど紹介したRT-PCR法は感染力の無いウイルスも検出してしまうので、監視業務には有効でない。適切な監視方法の1日も早い開発が期待されるところである。  Inouyeらの報告によると5)、50症例を超える大規模な集団感染例は、レストランに次いで学校、保育園、病院、老人ホームなどで起きている。その意味で集団給食を扱う場では、1年中警戒しなければならない食中毒病原体であると言えるだろう。冬場にも集団食中毒が起りうることを念頭に置いておく必要がある。  ところで殺菌方法であるが、これがまた難しい。培養できないウイルスの殺菌方法を検討することは不可能だからである。そこで苦心の研究を一つ紹介しておく。Slomkaらは6)、ネコのSRSV(ネコカリシウイルス)を用いてトリ貝の加熱殺菌実験を行った。それによると沸騰水中60秒で貝の内部温度は平均78℃に達し、その30秒後には平均88℃に達した。そして60秒の加熱処理をしたものからはウイルスは培養されなかった。この結果より彼らはA型肝炎ウイルスに準じた従来の殺菌法で十分対応できるだろうと結論している。  最後に一般的な予防方法であるが、排泄物の完全な消毒、手洗いの励行、調理の徹底した衛生管理などがあげられる。しかしながらもっと重要なことは、調理者はもちろんのこと、排泄物や吐物を扱う医療者に対して定期的監視を徹底することであり2)、疑わしい場合は業務に就かなくて良いような配慮がなされることであろう。 食調第66号   平成10年9月1日 厚生大臣  宮下 創平 殿 品衛生調査会     委員長 寺田 雅昭 生食用カキの衛生確保対策に関する意見具申  食品衛生調査会は、生食用カキの衛生確保対策について、下記のとおり意見具申する。 記 1.  SRSVに汚染されたカキが原因として食中毒が発生した場合には、被害拡大及び再発防止対策に資するため、当該カキの採捕海域までの遡り調査を緊急に行えるよう採捕海域の表示を行わせること。 2.  また、原因食品中からのSRSVの迅速かつ高感度な検出方法の開発及び採捕海域における汚染実態調査、SRSVの代替となる汚染指標菌の開発等の調査研究を引き続き推進すること。 ◇ ウイルス性食中毒の予防 ◇ SRSV食中毒(SRSV:Small round structured virus小型球菌ウイルス)とは  食中毒の大半は細菌や細菌の産生する毒素が原因で発生するが、食中毒患者や食品から特定の食中毒原因菌が検出されず原因物質不明事件として処理されてきた非細菌性食中毒もしばしば見受けられます。  カキなどを原因とするウイルス性食中毒もその主なものの一つです。  非細菌性食中毒のうちではウイルスによるものが多く、その中でもSRSVによるものが多く見られます。  SRSV食中毒は、秋から春先(10月から3月頃)にかけて多発します。一般に約24〜48時間の潜伏期間で発症し、初発症状は嘔気が最も多く、主症状は嘔気、嘔吐、下痢、腹痛のいずれかです。  症状は2〜3日で治まり、予後は良好ですが、便中へのウイルスの排出は3〜7日続きます。  SRSVによる食中毒は、二枚貝類、特に生カキの摂食に関連する事例が数多く報告されていますがケーキ・サンドイッチ・サラダ・飲料水などが原因食品として疑われる事例も報告されています。 ウイルス性食中毒の予防  SRSV等ウイルス性食中毒の原因として考えられるウイルスはいずれも腸管系ウイルスであり、糞口感染により伝搬します。  食品や水が糞便で汚染されることにより集団発生が起こります。細菌と異なりウイルスの場合、感染者の体内以外、特に食品中で増えることはないので、食品のウイルス(糞便)汚染をなくすことが予防となります。  カキは、海域により程度が異なるがSRSVに汚染されるものがあるといわれており、産地では自主検査を実施し、汚染が確認された場合は生食用としての出荷を自粛するなど汚染カキの流通防止に努めています。  二枚貝類貝の食品では、特に、サシミ、サラダなど加熱調理しない食品は注意を必要とします。  二枚貝類貝以外の食品の場合、ウイルス汚染は食品加工時に有症の食品加工従事者によって汚染されると考えられます。 数個から数百個のウイルスで感染することが知られており、有症者の食品加工を控えることが予防となります。 加熱調理が最も効果的な食中毒予防対策です。